青空文庫名作文学の朗読 岩見聖次朗読「沼地」芥川龍之介
朗読カフェSTUDIO 青空文庫名作文学の朗読 岩見聖次朗読「沼地」芥川龍之介
沼地
芥川龍之介
ある雨の降る日の午後であった。私わたくしはある絵画展覧会場の一室で、小さな油絵を一枚発見した。発見――と云うと大袈裟おおげさだが、実際そう云っても差支えないほど、この画だけは思い切って彩光の悪い片隅に、それも恐しく貧弱な縁ふちへはいって、忘れられたように懸かっていたのである。画は確か、「沼地」とか云うので、画家は知名の人でも何でもなかった。また画そのものも、ただ濁った水と、湿った土と、そうしてその土に繁茂はんもする草木そうもくとを描かいただけだから、恐らく尋常の見物からは、文字通り一顧さえも受けなかった事であろう。
青空文庫より
2015年10月14日
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