銭形平次捕り物控え

  • 萩柚月朗読銭形平次捕り物控えお篠姉妹全編通し 野村胡堂

  • 萩柚朗読銭形平次捕り物控「花見の仇討」野村胡堂一 二


    萩柚月朗読 野村胡堂「銭形平次捕り物控」花見の仇討ち三四


    萩柚月朗読 銭形平次捕り物控花見の仇討五六野村胡堂


    萩柚月朗読 野村胡堂 銭形平次捕り物控,花見の仇討ち七、八

    「親分」
    ガラツ八の八五郎は息せき切つて居りました。續く――大變――といふ言葉も、容易には唇に上りません。
    「何だ、八」
    飛鳥あすか山の花見歸り、谷中へ拔けようとする道で、錢形平次は後から呼止められたのです。飛鳥山の花見の行樂に、埃と酒にすつかり醉つて、これから夕陽を浴びて家路を急がうといふ時、跡片付けで少し後れたガラツ八が、毛氈まうせんを肩に引つ擔いだまゝ、泳ぐやうに飛んで來たのでした。
    「親分、――引つ返して下さい。山で敵討がありましたよ」
    「何?」
    「巡禮姿の若い男が、虚無僧に斬られて、山は※(「睹のつくり/火」、第3水準1-87-52)えくり返るやうな騷ぎで」
    「よし、行つて見よう」
    平次は少しばかりの荷物を町内の人達に預けると、獲物を見付けた獵犬のやうに、飛鳥山へ取つて返します。
    柔かな夕風につれて、何處からともなく飛んで來る櫻の花片、北の空は紫にたそがれて、妙に感傷をそゝる夕です。
    二人が山へ引つ返した時は、全く文字通りの大混亂でした。異常な沈默の裡に、掛り合ひを恐れて逃げ散るもの、好奇心に引ずられて現場を覗くもの、右往左往する人波が、不氣味な動きを、際限もなく續けて居るのです。
    「退いた/\」
    ガラツ八の聲につれて、人波はサツと割れました。その中には早くも驅け付けた見廻り同心が、配下の手先に指圖をして、斬られた巡禮の死骸を調べて居ります。
    「お、平次ぢやないか。丁度宜い、手傳つてくれ」
    樫谷かしや樣、――敵討ださうぢやございませんか」
    平次は同心樫谷三七郎の側に差寄つて、踏み荒した櫻の根方に、あけに染んで崩折れた巡禮姿を見やりました。
    「それが不思議なんだ、――敵討と言つたところで、花見茶番の敵討だ。竹光を拔き合せたところへ、筋書通り留め女が入つて、用意の酒肴さけさかなを開かうと言ふ手順だつたといふが、敵の虚無僧になつた男が、巡禮の方を眞刀で斬り殺してしまつたのだよ」
    「へエ――」
    平次は同心の説明を聽き乍らも、巡禮の死體を丁寧に調べて見ました。笠ははね飛ばされて、月代さかやきの青い地頭が出て居りますが、白粉を塗つて、引眉毛、眼張りまで入れ、手甲、脚絆から、笈摺おひずるまで、芝居の巡禮をそのまゝ、此上もない念入りの扮裝こしらへです。
    右手に持つたのは、銀紙貼りの竹光、それははすつかひに切られて、肩先に薄傷うすでを負はされた上、左の胸のあたりを、したゝかに刺され、蘇芳すはうを浴びたやうになつて、こと切れて居るのでした。
    「身元は? 旦那」
    平次は樫谷三七郎を見上げました。
    「直ぐ解つたよ、馬道の絲屋、出雲屋の若主人宗次郎だ」
    「へエ――」
    「茶番の仲間が、宗次郎が斬られると直ぐ驅け付けた。これがさうだ」
    樫谷三七郎が顎で指すと、少し離れて、虚無僧が一人、留め女が一人、薄寒さうに立つて居るのでした。
    そのうちの虚無僧は、巡禮姿の宗次郎を斬つた疑ひを被つたのでせう。特に一人の手先が引き添つて、スワと言はゞ、繩も打ち兼ねまじき氣色を見せて居ります。
    次第に銀鼠色に暮れ行く空、散りかけた櫻は妙に白茶けて、興も春色もめると見たのも暫し、間もなく山中に灯が入つて、大きな月がもやの中に芝居の拵へ物のやうに昇りました。
    陰慘な、そのくせ妙に陽氣な、言ひやうもない不思議な花の山です。
    「旦那、少し訊いて見たいと思ひますが――」
    平次は樫谷三七郎を顧みました。
    「何なりと訊くが宜い」
    「では」
    平次は茶番の仲間を一とわたり眺めやります。

  • 萩柚月朗読 銭形平次捕り物控 「迷子札5,6 」野村胡堂

    萩柚月朗読銭形平次捕り物「控迷子札7.8」野村胡堂

    「御免下さいまし」
    「誰ぢや」
    御徒町の吉田一學、御徒士頭おかちがしらで一千石をむ大身ですが、平次はその御勝手口へ、遠慮もなく入つて行つたのです。
    「御用人樣に御目に掛りたう御座いますが」
    「お前は何だ」
    「左官の伊之助の弟――え、その、平次と申す者で」
    「もう遲いぞ、明日出直して參れ」
    お勝手に居る爺父おやぢは、恐ろしく威猛高ゐたけだけです。
    「さう仰しやらずに、ちよいとお取次を願ひます。御用人樣は、屹度御逢ひ下さいます」
    「いやな奴だな、此處を何と心得る」
    「へエ、吉田樣のお勝手口で」
    どうもこの押し問答は平次の勝です。
    やがて通されたのは、内玄關の突當りの小部屋。
    「私は用人の後閑武兵衞こがぶへゑぢやが――平次といふのはお前か」
    六十年配の穩やかな仁體です。
    「へエ、私は左官の伊之助の弟で御座いますが、兄の遺言ゆゐごんで、今晩お伺ひいたしました」
    「遺言?」
    老用人は一寸眼を見張りました。
    「兄の伊之助が心掛けて果し兼ねましたが、一つ見て頂きたいものが御座います。――なアに、つまらない迷子札で、へエ」
    平次がさう言ひ乍ら、懷から取出したのは、眞鍮しんちうの迷子札が一枚、後閑こが武兵衞の手の屆きさうもないところへ置いて、上眼使ひに、そつと見上げるのでした。
    色の淺黒い、苦み走つた男振りも、わざと狹く着た單衣ひとへもすつかり板に付いて、名優の強請場ゆすりばに見るやうな、一種拔き差しのならぬ凄味さへ加はります。
    「それを何うしようと言ふのだ」
    「へ、へ、へ、この迷子札に書いてある、甲寅きのえとら四月生れの乙松といふ伜を引渡して頂きたいんで、たゞそれ丈けの事で御座いますよ、御用人樣」
    「――」
    「何んなもんで御座いませう」
    「暫らく待つてくれ」
    こまぬいた腕をほどくと、後閑武兵衞、深沈たる顏をして奧に引込みました。
    待つこと暫時ざんじ
    何處から槍が來るか、何處から鐵砲が來るか、それは全く不安極まる四半刻でしたが、平次は小判形の迷子札と睨めつこをしたまゝ、大した用心をするでもなくひかへて居ります。
    「大層待たせたな」
    二度目に出て來た時の用人は、何となくニコニコして居りました。
    「どういたしまして、どうせ夜が明けるか、斬られて死骸だけ歸るか――それ位の覺悟はいたして參りました」
    と平次。
    「大層いさぎよい事だが、左樣な心配はあるまい――ところで、その迷子札ぢや。私の一存で、此場で買ひ取らうと思ふ、どうぢや、これ位では」
    出したのは、二十五兩包の小判が四つ。
    「――」
    「不足かな」
    「――」
    「これつ切り忘れてくれるなら、此倍出してもよいが」
    武兵衞は此取引の成功をうたがつても居ない樣子です。
    「御用人樣、私は金が欲しくて參つたのぢや御座いません」
    「何だと」
    平次の言葉の豫想外よさうぐわいさ。
    「百兩二百兩はおろか、千兩箱を積んでもこの迷子札は賣りやしません――乙松といふ伜を頂戴して、兄伊之助の後を立てさへすれば、それでよいので」
    「それは言ひ掛りと言ふものだらう、平次とやら」
    「――」
    「私に免じて、我慢をしてくれぬか、この通り」
    後閑武兵衞は疊へ手を落すのでした。
    「それぢや、一日考へさして下さいまし。めひのお北とも相談をして、明日の晩又參りませう」
    平次は目的が達した樣子でした。迷子札を懷へ入れると、丁寧にいとまを告げて、用心深く屋敷の外へ出ました。

    青空文庫より

  • 青空文庫名作文学の朗読

    虹猫の話
    宮原晃一郎

     いつの頃ころか、あるところに一疋ぴきの猫ねこがゐました。この猫はあたりまへの猫とはちがつた猫で、お伽とぎの国から来たものでした。お伽の国の猫は毛色がまつたく別でした。まづその鼻の色は菫すみれの色をしてゐます。それに目玉はあゐ、耳朶みみたぶはうす青、前足はみどり、胴体は黄きい、うしろ足は橙色オレンヂで、尾は赤です。ですから、ちやうど、虹にじのやうに七色をしたふしぎな猫でした。
     その虹猫にじねこは、いろ/\と、ふしぎな冒険をしました。次にお話するのはやつぱり、そのうちの一つです。

     ある日、七色の虹猫は日向ぼつこをしてゐました。すると、何だか、たいくつで仕方がなくなりました。といふのは、近頃、お伽の国は天下太平で、何事もなかつたからです。
    「どうも、かういつも、あつけらかんとして遊んでばかりゐては、体が悪くなつていけない。」と、猫は考へました。「どれ、一つ、そこいらに出かけて、冒険でもやらうか知ら。」
     そこで、猫は、戸口にはり札をしました。
    「二三日、留守をしますから、郵便や小包が、もし留守中にきましたら、どうか、煙突の中に投げこんで置いて下さい。――郵便屋さんへ。」
     それから、ちよつとした荷物をこしらへて、それを尻尾しつぽのさきにつゝかけ、えつちやら、おつちやら、お伽の国境までやつて来ました。すると、ちやうど、そこに雲がむく/\と起つて来ました。
    「どれ一つ、雲の人たちのところに、顔出ししてみようかな。」
     猫はひとりごとを言ひながら、雲の土手をのぼり始めました。
     雲の国に住まつてゐる人たちは、たいへん愉快な人たちでした。仕事といつては、べつだん何にもしないのですが、それでも、怠けてゐるからつて、世の中が面白くないわけでもないのです。そして、みんな立派な雲の御殿に住まつてゐますが、御殿は地球から見える方よりも、見えない側がかへつて大へん美しいのです。
     雲の人たちは、とき/″\、一しよに、真珠色の馬車をはしらせたり、又軽いボートにのつて、帆をかけたりします。空の中に住まつてゐるので、たつた一人、恐こはいものは、雷様だけです。何しろ、雷様ときては、怒りつぽく、よく空をごろ/\と、足をふみ鳴らして、雲の人たちの家を叩たたきまはるからむりもないわけです。
    青空文庫より








  • 錢形平次捕物控
    朱塗りの筐
    野村胡堂

    「親分、美い新造が是非逢はしてくれつて、來ましたぜ」
     とガラツ八の八五郎、薄寒い縁にしやがんで、柄にもなく、お月樣の出などを眺めてゐる錢形の平次に聲を掛けました。
     平次はこの時三十になつたばかり。江戸中に響いた捕物の名人ですが、女の一人客が訪ねて來るのは、少し擽ぐつたく見えるやうな好い男でもあつたのです。
    「何て顏をするんだ。――何方だか、名前を訊いたか」
    「それが言はねえ」
    「何?」
    「親分にお目にかゝつて申上げますつて、――滅法美い女だぜ、親分」
    「女が美くつたつて、名前も仰しやらない方にお目にかゝるわけには參りません。と言つて斷つて來い」
     平次は少し中ツ腹だつたでせう。名前も言はない美い女と聞くと、妙に頑固なことを言つて、ガラツ八を追つ拂はうとしました。
    「惡者に追つ驅けられたとか言つて、蒼い顏をして居ますよ、親分――」
    「馬鹿ツ、何だつて冒頭つからさう言はないんだ」
     平次はガラツ八を掻き退けるやうに、入口へ飛出して見ました。格子戸の中、灯から遠い土間に立つたのは、二十三――四の年増、ガラツ八が言ふほどの美い縹緻ではありませんが、身形も顏もよく整つた、確り者らしい奉公人風の女です。
    「お前さんか、あつしに逢ひたいといふのは?」
    「あ、親分さん、私は惡者に跟けられてゐます。どうしませう」
    「此處へ來さへすれば、心配することはない。後ろを締めて入んなさるがいゝ」
     唯ならぬ樣子を見て、平次は女を導き入れました。奧の一間――といつても狹い家、行燈を一つ點けると、家中の用が足りさうです。
    「親分さん、聞いて居る者はありませんか」
    「大丈夫、かう見えても、御用聞の家は、いろ/\細工がしてある。小さい聲で話す分には、決して外へ洩れる心配はない。――尤も外に人間は二人居るが、お勝手で働いてゐるのは女房で、今取次に出たのは、子分の八五郎と言ふものだ。少し調子ツ外れだが、その代り内證の話を外へ漏らすやうな氣のきいた人間ぢやねえ」
     平次は碎けた調子でさう言つて、ひどく硬張つて居る相手の女の表情をほぐしてやらうとするのでした。
    「では申上げますが、實は親分さん、私は銀町の石井三右衞門の奉公人、町と申す者で御座いますが」
    「えツ」
     石井三右衞門といへば、諸大名方に出入りするお金御用達、何萬兩といふ大身代を擁して、町人ながら苗字帶刀を許されて居る大商人です。
    「主人の用事で、身にも命にも替へ難い大事の品を預かり、仔細あつて本郷妻戀坂に別居していらつしやる若旦那のところへ屆けるつもりで、其處まで參りますと、豫てこの品を狙つて居る者の姿を見かけました。――いえ、逢つたに仔細は御座いませんが、――私の後を跟けて來たところを見ると、どんなことをしてもこの品を奪ひ取るつもりに相違御座いません」
     お町は、かう言ひながら、抱へて來た風呂敷包を解きました。中から出て來たのは、少し古くなつた桐柾の箱で、その蓋を取ると、中に納めてあるのは、その頃明人の飛來一閑といふ者が作り始めて、大變な流行になつて來た一閑張の手筐。もとより高價なものですが、取出したのを見ると、虞美人草のやうな見事な朱塗り、紫の高紐を結んで、その上に、一々封印をした物々しい品です。
    「フーム」
     錢形の平次も、妙な壓迫感に唸るばかりでした。石井三右衞門の使といふのが一通りでない上、朱塗の一閑張の手筐で、すつかり毒氣を拔かれて了つたのでせう。このお町とかいふ確り者らしい年増の顏を、次の言葉を待つともなく眺めやるのでした。
    「丁度通り掛つたのは、お宅の前で御座います。捕物の名人と言はれながら、滅多に人を縛らないといふ義に勇む親分にお願ひして、この急場を凌がうとしたので御座います。後先も見ずに飛び込んで、何とも申譯御座いません」
     お町は改めて、嗜みの良い辭儀を一つしました。
    「で、何うしようと言ふのだえ、お町さんとやら」
    「この樣子では、とてもこの手筐を妻戀坂までは持つて參れません。さうかと言つて、この儘引返すと、一晩經たないうちに、盜まれることは判り切つて居ります。御迷惑でも親分さん、ほんの暫く、これを預つて置いて下さいませんでせうか」
    「それは困るな、お町さん。そんな大事なものを預つて萬一のことがあつては――」
     平次も驚きました。命がけで持つて來たらしいこの手筐を、そんなに輕々しく預つていゝものかどうか、全く見當も付かなかつたのです。
    「親分のところへ預つて置いて危ないものなら、何處へ置いても安心な處は御座いません。どうぞ、お願ひで御座います」
     折入つての頼み、平次もこの上は沒義道に突つ放されさうもありません。
    「それは預らないものでもないが、少しわけを話して貰はうか。中に何が入つてるか見當も付かず、後でどんなことになるかもわからないやうなことでは、どんなに暢氣な私でも心細い」
    「それでは、何も彼も申上げませう。親分さん、聞いて下さい、かういふわけで御座います」
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  • 野村胡堂の名作、銭形平次シリーズ

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