2016年11月

  • 『ジャンナ』 %ef%bd%88%ef%bd%90%e3%82%a6%e3%83%a9%e9%ab%98%e7%94%bb%e8%b3%aa

    創造集団池小
    『ジャンナ』
    作:アレクサンドル・ガーリン
    訳:堀江新二
    演出:鈴木龍男
    出演:渡辺美英子、前原礼子、西村俊彦、山田タケシ
    日程:2016年12月1日(木)~4日(日)

    短編動画にも出演しています。


    『Doppelgänger —ドッペルゲンガー』
    作・演出:森慶太
    出演:西村俊彦

  • 吉川英治 岡田慎平朗読「三国志」桃園の巻 桑の家一 二

    吉川英治 岡田慎平朗読,「三国志」桃園の巻 桑の家 三 四

    吉川英治 岡田慎平朗読「三国志」桃園の巻 桑の家五.六

    吉川英治 岡田慎平朗読「三国志」桃園の巻 桑の家 七 八 九

    桑の家

    ※(「さんずい+(冢-冖)」、第3水準1-86-80)たくけん楼桑村ろうそうそんは、戸数二、三百の小駅であったが、春秋は北から南へ、南から北へと流れる旅人の多くが、この宿場でをつなぐので、酒を売る旗亭きていもあれば、胡弓こきゅうくひなびたおんななどもいて相当に賑わっていた。
    この地はまた、太守たいしゅ劉焉りゅうえんの領内で、校尉こうい鄒靖すうせいという代官が役所をおいて支配していたが、なにぶん、近年の物情騒然たる黄匪こうひ跳梁ちょうりょうおびやかされているので、楼桑村も例にもれず、夕方になると明るいうちから村はずれの城門をかたく閉めて、旅人も居住者も、いっさいの往来は止めてしまった。
    城門の鉄扉てっぴが閉まる時刻は、大陸の西※(「涯のつくり」、第3水準1-14-82)さいがいにまっ赤な太陽が沈みかける頃で、望楼の役人が、六つのを叩くのが合図だった。
    だからこの辺の住民は、そこの門のことを、六鼓門こもんと呼んでいたが、今日もまた、赤い夕陽が鉄のにさしかける頃、望楼の鼓が、もう二つ三つ四つ……と鳴りかけていた。
    「待って下さい。待って下さいっ」
    彼方から驢を飛ばしてきたひとりの旅人は、危うく一足ちがいで、一夜を城門の外に明かさなければならない間ぎわだったので、手をあげながら馳けてきた。
    最後の鼓の一つが鳴ろうとした時、からくも旅人は、城門へ着いて、
    「おねがい致します。通行をおゆるし下さいまし」
    と、驢をそこで降りて、型のごとく関門かんもん調べを受けた。
    役人は、旅人の顔を見ると、「やあ、お前は劉備りゅうびじゃないか」と、いった。
    劉備は、ここ楼桑村の住民なので、誰とも顔見知りだった。
    「そうです。今、旅先から帰って参ったところです」
    「お前なら、顔が手形てがただ、何も調べはいらないが、いったい何処へ行ったのだ。こんどの旅はまた、ばかに長かったじゃないか」
    「はい、いつもの商用ですが、なにぶん、どこへ行っても近頃は、黄匪こうひの横行で、思うようにあきないもできなかったものですから」
    「そうだろう。関門を通る旅人も、毎日へるばかりだ。さあ、早く通れ」
    「ありがとう存じます」
    再び驢にのりかけると、
    「そうそう、お前の母親だろう、よく関門まで来ては、きょうもまだ息子は帰りませぬか、今日も劉備は通りませぬかと、夕方になると訊ねにきたのが、この頃すがたが見えぬと思ったらわずらって寝ているのだぞ。はやく帰って顔を見せてやるがよい」
    「えっ。では母は、留守中に、病気で寝ておりますか」
    劉備はにわかに胸さわぎを覚え、驢を急がせて、関門から城内へ馳けた。
    久しく見ない町の暮色にも、眼もくれないで彼は驢を家路へ向けた。道幅の狭い、そして短い宿場町はすぐとぎれて、道はふたたび悠長な田園へかかる。
    ゆるい小川がある。水田がある。秋なのでもう村の人々は刈入れにかかっていた。そして所々に見える農家のほうへと、田の人影も水牛の影も戻って行く。
    「ああ、わが家が見える」
    劉備は、驢の上から手をかざした。うすずのなかに黒くぽつんと見える一つの屋根と、そして遠方から見ると、まるで大きな車蓋しゃがいのように見える桑の木。劉備の生れた家なのである。
    「どんなに自分をお待ちなされておることやら。……思えば、わしは孝養を励むつもりで、実は不孝ばかり重ねているようなもの。母上、済みません」
    彼の心を知るか、驢も足を早めて、やがてなつかしい桑の大樹の下までたどりついた。

    青空文庫より

  • 西村俊彦田中智之朗読「火星の芝居」石川啄木

  • 海渡みなみ朗読、「或る女」林芙美子

    或る女

    林芙美子

    何時ものやうに歸つて來ると、跫音をしのばせて梯子段へ足さぐりで行つたが、梯子段の下の暗がりで、良人の堂助が矢庭に懷中電燈をとぼした。たか子はぎくつとして小さい叫び聲を擧げた。
    「何さ‥‥まだ、あなた、起きていらつしたの?」
    「寢てればよかつたのかい?」
    「厭アな方ねえ、一寸遲くなるとこれなンですもの‥‥あなたのお時計、いま幾時なンですの?」
    さう云つて、たか子は暗がりの中へつつ立つてゐる堂助の方へ手を泳がせて良人の腕時計のある手首をつかんだ。
    「パパ一寸それ照らして頂戴」
    堂助は素直に懷中電燈をつけた。腕時計の針は丁度十二時に十五分前を差してゐる。
    「あら、本當ねえ、隨分遲いわ‥‥ごめんなさい」
    「‥‥‥‥」
    「でも、吃驚したわ、パパそこへ立つていらつして‥‥」
    「俺が立つてゐたからつて、そんなに驚くこたアないぢやないか‥‥」
    「誰だとおもつたからよ‥‥」
    「ふふん、佐々のおばけとでもおもつたかい?」
    「まア、厭だ! それ皮肉でおつしやるの?」
    「皮肉ぢやないよ‥‥」
    堂助は、ふふんと口のなかで笑つて、懷中電燈を照しながら、さつさと二階へあがつて行つた。(何だつて、あのひとは懷中電燈など持ち出したンだらう‥‥)
    たか子はわざと荒々しく、廊下のスヰイツチをひねつた。四圍が森閑としてゐるので、堂助が書齋の革椅子をきしませて腰をかけてゐるのまで階下へきこえて來る。
    たか子は化粧部屋へ這入つて着物をぬいだ。着物をぬぎながら、たか子は瞼に涙のたまるやうな熱いものを感じた。
    寢卷きに着替へて二階の寢室へあがつて行つたが、堂助は書齋の灯をつけて何時までも起きてゐる樣子だつた。
    「パパ、おやすみにならないの?」
    「ああ」
    「何故? 何を怒つてらつしやるの?」
    たか子は寢床から起きあがると、良人の部屋へはいつて行つた。堂助は窓を明けて、星空を眺めながら煙草を吸つてゐた。
    「あら、綺麗なお星樣だこと‥‥」
    たか子は、太つた躯を堂助の膝の處へ持つて行つたが、堂助は小さい聲で、
    「厭だ」と云つて、窓ぶちへ立つて行つた。
    「何、そんな怖い顏して憤つてらつしやるの、だつて、今日は遠藤さんの出版記念の會ぢやありませんか、遲くなるの仕方ないわ」
    何時までも堂助が默つてゐるので、たか子は、たよりなささうに良人のそばへ行き、
    「怒つてるンだつたら、かんにんして頂戴、そんな怖い顏してるの厭よ‥‥」
    「もういいよ。寢ておしまひ。怒つてなンかゐないよ‥‥」
    「さう、でも‥‥」
    たか子は、良人の机の灯を消すと、久しぶりに堂助とむきあつて窓ぶちに腰をおろした。
    星が飛んでゐる。明日も天氣なのだらう、寺院の天井のやうに、高い星空で、秋の夜風が、たか子の髮を頬にふきよせてゐる。

  • 二宮隆朗読「言語と道具」寺田寅彦