夢野久作

  • 二宮隆朗読夢野久作「豚と猪」

     

    豚と猪

    夢野久作

     豚が猪に向って自慢をしました。
    「私ぐらい結構な身分はない。食べる事から寝る事まですっかり人間に世話をして貰って、御馳走はイヤと言う程たべるからこんなにふとっている。ひとと喧嘩をしなくてもいいから牙なんぞは入り用がない。私とお前さんとは親類だそうだが、おなじ親類でもこんなに身分が違うものか」
    猪はこれを聞くと笑いました。
    「人間と言うものはただでいつまでも御馳走を食わせて置くような親切なものじゃないよ。ひとの厄介になって威張るものは今にきっと罰が当るから見ておいで」
    猪の言った事はとうとう本当になりました。豚は間もなく人間に殺されて食われてしまいました。

    二宮隆 朗読

    夢野久作「蛇と蛙」

    蛇と蛙

    夢野久作

    冬になると蛇も蛙も何もたべなくなって土の中へもぐってしまいます。
    秋の末になって一匹の蛇が蛙に近づいて、
    「どうだい。今までは敵同士だったが、もう君をたべなくてもいいから仲直りをして一緒の穴へ入ろうじゃないか」
    と言いますと、蛙は眼をパチクリさして頭をふりました。
    「嫌なこった。そんなことを言って来年の春あたたかくなったら一番に私をたべる積りだろう。私と仲よくしたいならふだんから私たちをたべないようにするがいい」

    二宮隆朗読

    夢野久作「ペンとインキ」

    ペンとインキ

    夢野久作

    ペン先がインキにこう言いました。
    「お前位イヤなものはない。私がいくら金の衣服を着ていても、お前はすぐに錆さして役に立たなくしてしまう。私はお前みたいなもの大嫌いさ」
    インキはこう答えました。
    「ペンは錆るのが役目じゃない。インキはなくなるのがつとめじゃない。一緒になって字を書くのが役目さ。錆るのがイヤなら鉄に生まれて来ない方がいいじゃないか。インキがイヤなら何だってペンに生まれて来たんだえ」

    二宮隆朗読

    夢野久作「懐中時計」

    懐中時計

    夢野久作

    懐中時計が箪笥の向う側へ落ちて一人でチクタクと動いておりました。
    鼠が見つけて笑いました。
    「馬鹿だなあ。誰も見る者はないのに、何だって動いているんだえ」
    「人の見ない時でも動いているから、いつ見られても役に立つのさ」
    と懐中時計は答えました。
    「人の見ない時だけか、又は人が見ている時だけに働いているものはどちらも泥棒だよ」
    鼠は恥かしくなってコソコソと逃げて行きました。

    二宮隆朗読

    夢野久作「蚤と蚊」

    蚤と蚊

    夢野久作

    夏の暑い日になまけものがひるねをしておりますと、蚤と蚊が代る代るやって来て刺したり食いついたりしました。なまけ者は怒りだして、
    「折角ひとが寝ているのに何だっていたずらをするのだ」
    と叱りつけました。
    蚤と蚊とは声をそろえて答えました。
    「私たちはあなたのように寝ころんでいるなまけものがすきなのです。私たちに好かれないようになりたいならば、起き上ってセッセとお働きなさい」


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    二宮隆朗読「微笑」夢野久作

    微笑

    夢野久作

    それは可愛らしい、お河童かっぱさんの人形であった。丸裸体まるはだかのまま……どこをみつめているかわからないまま……ニッコリと笑っていた。
    ……時間と空間とを無視した……すべての空虚を代表した微笑であった。
    ……真実無上の美くしさ……私は、その美くしさが羨ましくなった。云い知れず憎々しくなった。そのスベスベした肌の光りが無性に悲しく、腹立たしく、自烈度じれったくなった。
    その人形を壊してしまいたくなった。その微笑をメチャメチャにしたくなった。私は人形を抱き上げて、静かに首をねじって見た。するとその首は、殆んど音も立てないで、ポックリと折れた中から、竹の咽喉笛のどぶえがヒョイと出て来た……人を馬鹿にしたように……。
    私は面白くなった。
    拳固げんこを固めてポカリと頭をたたき割ったら、鋸屑おがくずの脳味噌がバラバラと崩れ落ちて来た。胴を掴み破ると、ボール紙の肋骨ろっこつが飛び出した。その下から又、薄板の隔膜と反故紙ほごがみの腸があらわれた。手足をポキポキとヘシ折ったら、中味は灰色の土の肉ばかりで、骨のとこ空虚うつろになっていることがわかった。
    けれども人形は死ななかった。何もかもバラバラになったまま、可愛らしくニコニコしていた。
    私はいよいよ苛立いらだたしくなった。人形の破片かけらを残らず古新聞に包んで、グルグルと押し丸めて、庭の隅のハキダメにタタキ込んだ。……こんな下らないものを作った人形師をのろいながら…………。
    その古新聞紙はハキダメの中で雨にたたかれて破れた。メチャメチャになった人形の手足が、ゴミクタの中に散らばった。その中から可愛らしい硝子ガラスの片眼だけが、高い高い青空を見詰めながら、いつまでもいつまでも微笑していた。私はずっと後になってそれを発見した。そうして何かしらドキンとさせられた。
    私は履物のかかとで、その片眼を踏みつけた。全身の重みをかけてキリキリと廻転した。
    白い太陽がキラキラと笑った


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